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Konaさんくるまよもやま話

 

 19.バウ付けスタン付け

 車を車庫に入れるとき頭から入るか後進で入るかということがありますが、たいてい後進で入ると思います。
そのほうが狭い場所では入りやすく、表から見たときにお尻が見えたのでは不恰好。
出かけるときサッと出られます。
船も桟橋に着くときバウ(船首)付けと言って頭から入るのか
スタン(とも)付けと言ってお尻を陸に向けて着くのかと言う選択があります。
帰港して一刻も早く陸に上がりたければバウ付け、出港時に一刻も早く出たければスタン付けです。

ヨーロッパの海軍は伝統的にとも付け(スタン付け)ですが、アメリカ海軍はバウ付けで
戦後日本の自衛隊もバウ付けです(戦前は沖のブイに付けたのでバウもスタンもない)。
呉に行けば潜水艦に至るまでみんな船首を陸に向けているのが分かります。
車は前輪で操舵するので後進のほうが狭い場所に入りやすいのですが、船は舵が後尾なので前進のほうが入港しやすい。
にもかかわらずヨーロッパの軍艦がとも付けなのは、船は陸からではなく沖から見るものという考えがあるからだと思います。

船は海が通りで道路ですから陸は裏側になります。
日本でもとくに瀬戸内海の町は海側が表でしたが、いまは車の走る道路が表で海は裏側のように意識され風景が変っています。
書いたようにとも付けだと緊急時にサッと出港できるということもあります。

モナコでもカンヌでもポルトフィノでもヨーロッパ地中海の歴史的な港に行くと大きなヨットやクルーザーが
ピアノの鍵盤のように並んでいますが、これもすべてとも付けです。
出港のとき逃げるようにサッと行くのが粋というものです。

地中海の豪艇のとも付けにはもうひとつの意味があります。
陸に尻を向けるとキャビンの後ろのオープンデッキが陸から目の前に見えるので
デッキで展開するリッチな暮らしやパーティーを陸を散歩する人々に見せびらかすことができる。
日本人はそういうことはひっそりと奥ゆかしくやれと思うでしょうが
地中海で過ごす欧米人の感覚では華麗な生活を演出し見せないとほぼ意味がないと言うくらい。

ただしこれは港を晴れ舞台に考える地中海の話で、フランスも北海側やほかの国ではボートとヨットの着き方はまちまち。

軍艦はヨーロッパのどこもロシアもスタン付け(とも付け)です――そう書いて
確認のためにいまグーグルアースで覗いたら、ドイツなどはバウ付けもあってばらばらでした。
今はあまりこだわりがないのかもしれません。

仏、伊などとくに南欧の軍艦はじつにきれいにスタン付けです。ついでにいえば中国や台湾の軍艦は
日米と同じバウ付けですが、なぜか韓国海軍はスタン付け。アメリカの影響が強い国なのに。

 イタリア語で船をナーヴェといいます。日本で位置確認の装置をナビと言っていますが
あのナーヴェです。ボートはイタリア語でバルカで小さなボートはバルケッタ。
オープンスポーツの車をバルケッタと呼ぶことがありました。
車とフネの違いは、陸上は固いが(当たり前)海は液体なのでふわふわ、くにゃくにゃしているということです。
船は海水自体がサスペンションですが固い地面を走る車の場合フネと違いとくべつな装置が要る。

ボートやヨットに乗って港に戻り車で走り始めると「陸は固くていやだな」と思うことがあります。
ボートに乗っていると大げさに言えば子宮で羊水に包まれていると想うときがある。
欧米の車のプロにはボート、ヨットに乗る人もひじょうに多いので車の足回りを開発するときは
フネの感覚の影響があるかもしれない。
ヨーロッパの車にそれを感じることがあります。もちろんふわふわしているという意味ではなく
クルーザーで水上を飛ばすときの感じ、ヨットで帆走しているときのイメージです。
環境に寄り添い一体になる感覚です。
これは重要なことかもしれません。



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