WINCARS KURUMAYA KOZO
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今日はミシュランのガイドブックについて書きます。
今では日本版が出てすっかり有名になったミシュランのギド(ガイドブック)ですが
三ツ星レストランで有名なそれはルージュ(赤本)と言い、海外版ではほかにヴェール(緑=青本)と
道路地図とで三位一体のシステムになっています。百年以上の蓄積があるので究極の内容とシステム。
赤本が宿、レストラン、リゾートの情報本なのに対し
青本(緑本)は名所旧跡の歴史由来を紹介する日本に類書のない大人のガイドブックです。
ぼくはミシュランギドを知って四十年の付き合い。
ミシュランはご承知のようにタイヤのメーカーです。
百十年前に初めて出版されたときはタイヤの宣伝をかねて無料で配布したのです。
当時のヨーロッパですからもちろん配布した先は貴族か富裕層だったのは間違いないはずですが
それが評判を呼んで進化し、今の日本ではひょっとしてタイヤよりガイドブックのほうが有名かもしれない。
ミシュランのマスコットは白い包帯巻き巻き(じつはタイヤのチューブ)のビバンダムです。
ビバンダムの意味は「飲み込んじゃうくん」で(英語で飲み物のことをビバレッジというでしょう)
釘でも小石でもなんでも飲み込んじゃうくらい強いタイヤということ。
するとそのころのタイヤはチューブレスのソリッドだったのかなと思うけれど
ビバンダムはチューブですからね、よく分かりません。
ギド・ミシュランは毎年改訂されるので改訂版が出ると旧版は安くなります。
四十年前、京都丸善の洋書バーゲンでギド・ルージュを見たぼくは世の中にこんなものがあるのかと驚いて
旧版のギド・ミシュランを集めるようになりました。
じつはぼくは子どものころからの地図マニアで膨大な量の地図があるのですが
ギド・ミシュランはまずガイドブックの中の都市図の精緻さに驚いたのです。
じつにフランス的合理的かつ客観的な内容で、あらゆる都市や村落が名前のABC順で載っている。
ぐうぜん手元にある74年版フランス版赤本を見たら筆頭はアブヴィルという町でした。
それぞれレストランと宿とリゾートの情報が客観的合理的詳細に記号化され
そして中心街の地図が載っていて、その地図がすばらしく、見るだけで通りを歩いている気になります。
通りの曲がり具合や広くなったり狭くなったり、広場の形などじつに細かに表現がしてある。
とくにイタリアやスペインの古い町の地図は秀逸。
日本人がどんなにマニアックで職人気質、オタクな民族と言っても、真似のできない世界があると思いました。
グリーンガイド(青本)も風景の紹介など写真ではなくすべてペン画で美しかった。
今のギドは都市図もコンピュータで描くから昔ほど美しくありません。
風景の紹介もカラー写真になっています。
そういうわけでぼくの周りには古いギド・ミシュランがいつもころがっていましたが
じっさいに旅行で活用したことはありませんでした。
旅先では宿もレストランもその場のカンで決めてしまうんです。
その場のカンで決めて入った世界のレストランや宿に思い出深いところが多い。すべてドラマといって良いくらい。
ミシュラン赤本の星印は信用できるのかと言う人が居ます。
たしかに日本でミシュランはコマーシャリズムの渦中にあるとも思い、日本版の赤本は単に店の紹介ですからね。
しかし、合理性と客観性では徹底してきたミシュランなので
並みのランク付けのようなポピュリズム(大衆迎合)はないと思う。
大阪に古いお付き合いの割烹があり、ちいさな店で常連の人しか行かないような一見凡庸な店ですが
それがミシュランの京阪版が出て一つ星をもらったと知ったときはミシュランは凄いわと思いました。
奈良に「温石」という割烹の店があり、二十代のころ人に連れられ何度か行きましたが
忘れられない名店でした。それから三十年たち、久しぶりに行ってみたいと思い
ネットで検索すると、一般の「評価」がけちょんけちょん。
それほどひどいものならよほどの名店なのかとますます行きたくなり、と思っていたら
突然ミシュランの赤本で二つ星になった。
これで予約の取れない店になってしまったと思うが、ミシュランはさすがと思ったのです。
「温石」をけなしていた人もミシュランの格付けを見たとたん、その店に行ったことを自慢するのかもしれません。
74年版赤本の南仏アヴィニヨン