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Konaさんくるまよもやま話

 

 17.フェラーリとストラッド

 日本でスーパーカーと呼ぶものはドイツにもイギリスにも
そしてアメリカにもあったかもしれませんが本場はイタリアでしょう。
フェラーリ、ランボルギーニ、デトマソパンテーラ、そしてアルファロメオのTZなども
実用品よりアート以外のなにものでもありません。
どうしてイタリアでそんな車がうまれたかと言えば貴族の遊びという伝統が有ったから。
欧米では貴族や富裕層は権威や富を庶民に見せびらかす義務があるくらいなので
高級官僚が立派な官舎に住んでいるというだけで批判される日本とは
社会の仕組みが違うのですが(その欧米の仕組みも近年急速に変りつつありますが)
純粋に遊びのための車、みせびらかすための車が彼の地では必要だったのです。
しかしセレブの伝統ならイギリスやフランスのほうが重厚だろうに、なぜスーパーカーがイタリアなのかと言うと
ひょっとすれば背景に音楽やアートの伝統文化との関連があるかもしれないとぼくは思う。

フェラーリの元になったアルファロメオもそしてフェラーリも
フェラーリから影響を受けたランボルギーニもデトマソもすべて本拠はミラノ近郊です。
オペラの本場はミラノで、バイオリンの本場もミラノの近くのクレモナ。

オペラやバイオリンの伝統ならドイツにもあるというかもしれないが、オペラもバイオリンももとはイタリアで
イタリアとドイツのオペラはフェラーリとポルシェくらい違います。
ポルシェは四人乗りクーペで実用を装っていますよね。モーツアルトはすこしイタリア人のようなキャラもあるので
彼のオペラはフェラーリに近いのですが(ちなみにモーツアルトはオーストリア生まれ)。

バイオリンはすこし謎のある楽器です。弦をこすって鳴らす楽器はヨーロッパとアジア全域に有り
日本では中国の二胡が今は有名ですが、日本にも三味線を弓でこするような胡弓が江戸時代からあった。
それがヨーロッパではヴィオラダガンバというチェロに似た楽器などヴィオール属と呼ばれる楽器でしたが
それとチェロやバイオリンは形は似ても根本がまったく違う。とつぜん新しく発明されたような楽器なのです。
その経緯は分かっていませんが、バイオリンの本場が初めからイタリアでクレモナの町だったのは確かです。

今もバイオリンの世界的なプロ奏者の多くがクレモナの「オールド」を使っています。
オールドといっても車で言えばヴィンテージで、アマティ、そのアマティの弟子のストラディバリとガルネリが
バイオリンの最高峰といわれています。どちらも一億円以上しますがストラディバリが、とくに高価。

なぜストラッドが高価かといえば、まず台数が多くて有名だから。ストラディバリは九十二歳まで生き
その工房から生まれた楽器はバイオリンだけで千台以上と言われ、現存しているものも世界に六百台あるらしい。
欲しい人も多いが供給もあり、マーケットが成立しているから逆に高価と言うこともあるのです。

高価であるさらに大きな理由は、だれが聞いてもバイオリンらしい優美な音に聞こえる楽器だから。
ライバルのガルネリにすこし癖があるのに比べ(だからこそのファンも多い)
ストラッドの音はエレガントで奏者をあまり選ぶこともなく室内楽にもソロにも万能のバイオリンです。
ストラッドがバイオリンの女王といわれるゆえんです。

以上、読者はお気づきでしょうが、車で言えばフェラーリなのです。
ブガッティでもメルセデスでもポルシェでもランボルギーニでもニッサンGTRでもなくフェラーリ。
犬は飼い主に似ると言われますが車は乗る人の性格で性能が変わります。
とくに欧州車は百万円のコンパクトカーでも自分のものに手なづけるのに時間がかかるといわれ
すこしずつその人の車になってゆくといわれました。

女の人には失礼な表現かもしれないが、とくにオールドの車は気を使い女のようだともいわれます。
車以上にバイオリンは奏者との結びつきが深く、人の魂が乗り移るといってよいくらい。
これも女に例えられるヨットやボートのオーナーは男が多く、ヴィンテージの車を持つのもほとんど男ですが
バイオリン奏者も世界的には男が多い。女の演奏家も少なくないが
男っぽい性格の人が多いようです(そう言っても失礼にはならないと思う)。

ところでヴィンテージのフェラーリといえども不動のものと、ぼろでも走行できるものと
レストアされメンテも完全で新車のようなものといろいろでしょうが
バイオリンのストラッドも事情は同じ。

ただし車と違い何百年と伝えられ、フェラーリも比べられないくらい高価なものですから
すべてレストアとメンテがされている。博物館やコレクターの収蔵庫に保管されたものと
演奏家のもとに現役のものとがあるのは古車と似ているかもしれません。
車はメンテが完全でも走行させないとだめになりますからたとえ博物館所有のものも可動車はときどき動かしているはずですが
バイオリンも同様に博物館のガラスケースに入ったものも日々だれかが弾いているでしょう。
そのことを含めての維持管理です。

フェラーリには真贋の問題がないでしょうが、オールドの名器のバイオリンには美術品と同じようにあります。
ボディの内側に貼られたラベルや鑑定書などは信用できません。
今は科学的な方法であるていど鑑定できるようですが(木質でいつ作られたものか分かる)
ほんものかどうかの最後は見た目の判断。音では判断できないらしい。
音と言うものは演奏者や場所やいろんな要素がからむのでよほど長い目で(長い耳で?)観て聞かないと判断できないのです。

バイオリンは演奏の道具なので、道具という点は車と同じです。
美術品と違い、詐欺でなければニセモノでも構わない。
プロの鑑定士が見ても本物の雪舟の絵があるとします。
科学鑑定で時代が違うと分かると、いきなり偽作の烙印を押され、一億円の価値は千分の一
万分の一になってしまいます。本物と間違うくらいの名画ですからじっさいに描いた人のサインなら
百万くらいの価値はあるでしょうが、雪舟の印なら偽作ですからほぼ無価値になるのです。

バイオリンの場合は違います。本物と鑑定されていたものが科学鑑定で時代が違うと言われても
所有者は残念でしょうが価値が千分の一になることはない。
ストラッドのほんものと区別の付かないニセモノなら一億円が二、三千万になるていどのことです。
ほんものと区別のつかない外観で区別のつかない音なら楽器としてストラッドと同じくらいによくできているわけですから。

科学鑑定のなかった時代はどうなのかと言えば、美術もそうですが、真贋と言うものは最後に神の領域に入るようなところはあります。
分かったようなことを言わせてもらえば、人の人生も車の品格にしてもホンモノ、ニセモノということは微妙です。
バイオリンでは、ほんものの名器もオリジナルかどうかの問題もあります。

レストアされた古いフェラーリの場合、ボディを完全に載せ換えた場合はオリジナルなのかどうか
新しく作ったエンジンブロックやピストンで組んだエンジンは、元の設計どおりでもオリジナルといえるのか。
あまり厳密ではないのではないでしょうか。

バイオリンの場合はっきりしています。表板、裏板、側板、つまりバイオリン本体(ボディと言います)と
頭の渦巻き部分が元のままならオリジナル。塗装も重要で、補修はしてもよいが完全に塗り替えるとオリジナルでなくなります。
ボディと渦巻きがストラッドなら、そのバイオリンはオリジナルのストラッドです 。
左手で支える部分をネックといいますが、ネックはオリジナルでなくてもかまいません。
というより現代の演奏はストラッドの時代とピッチ(調律)が違い、ネックの長さが違うので
オリジナルのネックでは演奏できないのです。あえてストラッドの時代(バロック)の調律で当時の奏法で弾くのを古楽と言い
演奏集団を古楽アンサンブルといいますが、ヨーロッパのクラシックは今
オリジナル楽器の演奏が静かな潮流です。

エコロジー革命と無関係ではないかもしれません。
ちなみにストラディバリの名はストラーダに由来します。
アウト・ストラーダは高速道路ですね。

ストラディバリの先祖が通行税を取る人だったからという説が有力です。



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